Ⅲ. 濃厚流動食の使用法


1. 使用上の基本事項

 ○投与スケジュールを決めて下さい。
 ○液状流動食の場合は、急速投与はしないで下さい。
 ○調整の際の取り扱いや、容器を清潔にするよう注意して下さい。
 ○開封後は出来るだけ早くご使用下さい。

2. 投与する濃厚流動食に関して

 ○投与熱量について
 患者さんごとの必要な投与熱量を個別に設定する際には、患者さんの状態に合わせて、ハリスベネディクトの式等で算出した値を参考に投与熱量を決定して下さい。また、体重あたり25~30kcalを基準とする考え方もあります。さらに、重症患者では間接熱量計での測定も有効です。

 ○投与する栄養素の組成について
 患者さんの栄養状態を評価し、最新の「日本人の食事摂取基準」なども参考にしながら投与する組成を決定し、総合栄養食品(病者用)又は濃厚流動食より適切なものを選択して下さい。

 ○総合栄養食品(病者用)及び濃厚流動食の投与温度について
 従来、濃厚流動食の投与温度は「体温(35℃)程度を基本として下さい。」等の考え方がありますが、投与前に加温しても、経管投与中に冷めてしまい、実際には室温に近い温度での投与となります。温めると細菌の増殖を早め、下痢の原因になったり、変性の危険性もあります。冷蔵庫から出した直後の状態で投与しなければ、あえて加温の必要は無いと思われます。

 ○下痢への配慮
 患者さんが下痢傾向の場合は、下痢の改善に関連のある、「中鎖脂肪酸」、「食物繊維」、「オリゴ糖」等が配合されたものを選択してみて下さい。下痢の多くは投与速度が速過ぎ、濃度(浸透圧)が不適合な場合に起こります。 
また、下痢が続く場合は医師に相談すると共に、低速安定投与を試みるか、経腸栄養専用ポンプを用いてください。 最近では、総合栄養食品(病者用)及び濃厚流動食摂食時の下痢改善目的で半固形化した流動食が用いられることもあります。
 同様に、下痢にもかかわらず、下剤や下痢の原因となる抗生物質等の使用を継続している場合もご注意下さい。

3. 投与スケジュール

1) 投与スケジュールの原則
流動食の投与速度は、消化管の状態や投与ルート、使用する流動食の特徴によって変わります。腸管の耐用性を確認しながら、段階的に投与量や速度を上げていくのが原則です。具体的なチェックポイントは、
 ① 下痢の有無
 ② 食道逆流の有無
 ③ 腹部膨満症状
 一般的に、液体流動食を経鼻より投与する場合には、下痢や腹部膨満感に配慮しながら15mLから20mL/hrの緩徐な速度で開始し徐々に増量して100mL/hrを目安速度とします。

2) 投与時間、投与速度
  ○ ボーラス投与
・胃瘻から胃に注入する場合に行う方法。
・30分以内で注入が完了し、300~ 500mLを投与します。
・投与速度:300~ 500mL/30分
・胃食道逆流などの症状がなく、安定した状態の患者に対して行います。
・短時間での投与による胃食道逆流、下痢などを防止するために半固形化された流動食を用いることが多い。
・半固形化された流動食の注入には加圧が必要なため、用手的に困難な場合は加圧バッグや巻き上げ器などの補助具の使用も考慮します。
・あらかじめプラスチックシリンジに充填しておく方法もあります。
・注入時間が短時間なため、在宅介護などにおいて介護者の負担が軽減されるメリットも大きいといえます。
・1日2~4回の投与で1日の必要量を投与します。

  ○ 1時間投与
・経鼻胃管、胃瘻から胃に注入する場合に行う方法。
・投与速度:300~500mL/時
・液体の流動食をチューブ付属のクレンメの開放度と流動食と患者との高低差で調節して投与します。
・ポンプなしでも投与可能なため、比較的簡便な方法です。ただし、投与量が過剰になり過ぎないように注意します。
・少量から始め、急速投与の副作用がないことを確認しつつ、徐々に投与量を増加させます。
・ボーラス投与と同様に、胃食道逆流がなく安定した状態の患者に対して行います。

  ○ 3~4時間投与
・経鼻胃管、胃瘻から胃に注入する場合に行う方法。
・投与速度:80~ 100mL/時
・胃瘻からの投与開始の場合は患者の状態も考慮し、この位の速度から始めます。
・自然落下でも投与できるが、可能であればポンプを使用します。
・1日3回前後で必要量を投与します。
・認容性をチェックしながら投与時間の短縮も考慮します。
・空腸瘻は原則的には少量持続投与ですが、消化管が経腸栄養に慣れてくれば、3-4時間投与は可能となる場合もあります。

  ○ 持続投与 ・空腸瘻や経鼻十二指腸、空腸カテーテルを用いて小腸に注入する場合に行う方法。
・投与速度:15~ 80mL/時
・速度の調節が難しいため、必ず注入ポンプを使用します。
・胃への投与でも、長期間絶食後や術後腸蠕動が十分でない時期に開始する場合も10~20mL/時でゆっくり投与を開始し、腹部膨満感、吐き気、嘔吐などの症状の有無をチェックしながら、 80mL/時まで速度を上げます。100mL/時までは可能であると報告されています。
・上体の挙上は必要なく、長時間の投与が可能です。
・24時間の持続投与も可能ですが、1日10~16時間以内の投与時間に設定すると、経腸栄養の休止時間もとれるので、チューブフリーの時間が確保できます。
・投与時間が8時間を超える場合は、体内に留置しているカテーテルの詰まり防止のため、投与の途中で10mLの微温湯(水道水でよい)を用いてフラッシュします。またボトルを使用している場合は新しいものに交換します。終了後は微温湯を用いてフラッシュした後、10倍に希釈した食用酢にてカテーテル内を満たしてロックすることがあります。

4. 栄養ラインと輸液ラインの誤接続防止

 誤接続は最も重大な合併症と考えなければなりません。点滴剤が腸内に投与されてもさほど問題はありませんが、経腸栄養剤が静脈内に投与された場合には、致命的な合併症を来すと考えられます。対策としては、静脈ラインとは異なった形状の注入システムを導入し、必ず誤接続防止のコネクターのついた器具を使いましょう。それにより経腸栄養のラインを静脈ラインに接続することが不可能になり、安全が確保されることになります。コスト以前の問題であり、第一に取り組むべきものです。

5.濃厚流動食へのほかの物質の混合による変化を避ける

 濃厚流動食の種類によっては、酸やpHの影響により物性が変化することがあります。特に凝集するような変化が起きるとチューブの目詰まりの原因にもなります。
 近年では薬剤の経管投与法として、簡易懸濁法が用いられ、流動食と同じ経路(チューブ)から薬剤を投与することが多くなってきています。したがって、流動食の投与前後でチューブのフラッシングを十分に行う必要があります。
※簡易懸濁法については、昭和大学薬学部薬剤学教室のホームページをご覧ください。

6.経管投与時の水分管理

 1 kcal / mLの液体流動食の水分量は通常80%程度ですが、高濃度の1.5~2.0kcal/mLでは、50~70%程度と少なくなることがありますので、脱水などの注意が必要です。
水分量の設定目安として
 ① kg体重あたり30mLとする方法
 ② 必要エネルギー量の絶対値にmLを付ける方法
 ③ 前日尿量+不感蒸泄-代謝水で求める方法
 ④ 体表面積で算出する方法
 などが用いられますが、一般的には①~③の方法が用いられています。
また、半固形状流動食の場合では、不足した水分も半固形状で注入することが望ましいとされていますが、水分を液体のまま注入する場合には、胃内容がなるべく存在しないタイミング(半固形状流動食の投与前後2時間以上)での投与が望ましいとされています。

7.投与終了時の洗浄方法

 間欠的な栄養剤の投与時には、栄養剤投与終了時や薬剤注入後に水道水20mL程度でフラッシュします。
 注入ポンプを使った持続注入時には、定期的なフラッシュが必要です。一般的には、半消化態経腸栄養剤や半消化態流動食使用時には、1日4~6回、成分栄養剤や消化態栄養剤使用時には1日2回のフラッシュで、フラッシュには水道水20~30mLを用いるとされています。
 参考:酢水の使用(酢水ロック)
 胃瘻において特にチューブ型の場合、チューブ内腔を清潔に保つ目的で、酢酸のもつ抗菌効果を利用し、酢水によるカテーテルのロックが流動食注入後に行われることがあります。流動食(半固形含む)を投与後、水道水でフラッシュし、作製した酢水をカテーテルに注入しクランプ、酢水を充てんした状態で、次の投与までこの状態にしておきます。
【酢水の作り方】
 ・食酢:水=1:9として作製します。 

8.濃厚流動食を希釈して投与する場合の留意点

 菌の混入の機会を増すことにもなり、原則的には流動食に水分を足すことは推奨されません。どうしても水分で希釈して製品を使用する際には、衛生的な水を使用する、希釈したまま長時間放置しない、といった配慮が必要です。

9.チューブ/投与用具洗浄の目安について

 原則的にチューブは使い捨てになります。
 具体的な洗浄方法は、①水道水で洗浄する。②付着した汚れを十分に落とす。③自然乾燥(乾燥器を使ってもよい)させて再利用する、ルート内も完全に乾燥させることが原則です。週に1回は、0.01%の次亜塩素酸ナトリウムに1時間浸して消毒し、水道水で洗い流し同様に乾燥させます。

10.保管方法について

       
 開封前は、各製品の表示にある保管方法にしたがって下さい。賞味期限が過ぎた製品は使用しないで下さい。開封後は、濃厚流動食をすぐに使用しない場合は冷蔵庫に保管し、早めに使用して下さい。
多くの濃厚流動食は防腐剤を含んでおりませんので、開封して投与容器に移し替えたあと6~8時間以上経つと細菌が急激に多くなります。長期間の放置や容器に残った状態での継ぎ足しは絶対に避けて下さい。また、投与に用いたものは残っていても再使用しないで下さい。

11.濃厚流動食の紙パック、バッグ製品使用時の注意点

○紙パック製品
 【運搬時】
・ケースの投げ降ろしは絶対に避けてください。
・ケースの上を歩いたり、載ったり、足を掛けたりしないでください。
・ケースの角をつぶさないようにご注意ください。容器は角型なので隙間なく包装されています。
【保管時】
・常温の範囲内で保存してください。(未開封の場合に限ります)直射日光の当たる場所や、
高温になりやすい場所、氷点下での保管は避けてください。製品を凍らせた場合、容器が
膨張し、破裂可能性があります。
・粉塵、水漏れのない場所に保管してください。容器を直接水に浸した場合、容器の貼り合わせ部分の原紙の端面から水が浸透し、容器が変形する可能性があります。
【ケース開封時】
・外包装から容器を取りだす際、カッターナイフやハサミの使用は避けてください。容器が破損し、内容物の変敗に至る可能性があります。
・ケースから容器を取りだす際、容器に負担をかけ変形させないよう注意願います。

○バッグ製品
 【運搬時】
・ケースの投げ降ろしは絶対に避けてください。
・ケースの上を歩いたり、載ったり、足を掛けたりしないでください。
【保管時】
・常温の範囲内で保存してください。直射日光の当たる場所や、高温になりやすい場所、氷点下での保管は避けてください。製品を凍らせた場合、容器が膨張し、破裂可能性があります。
【ケース開封時】
・外包装から容器を取りだす際、カッターナイフやハサミの使用は避けてください。容器が破損し、内容物の変敗に至る可能性があります。
【使用時】
・取り扱い時に衝撃を受けないように注意ください。スパウト部は特に弱いため、強い衝撃を受けることにより漏洩する可能性がございます。
・折り取りスパウトは再封性がありませんので、開封後は速やかに使用してください。

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