濃厚流動食品を使用した場合の塩化ビニル製医療用具からの 可塑剤溶出試験


塩ビ可塑剤の溶出について

1.平成14年10月 厚生労働省医薬局
医薬品・医療用具等安全性情報 No.182

ポリ塩化ビニル製の医薬用具は、素材が化学的に安定であること、柔軟性・耐久性等に優れていることなどから、内外において医療の場で広く使用されています。一方、ポリ塩化ビニルはその特性である優れた柔軟性を保持するために、材質中に可塑剤(※1)が添加されており、この可塑剤(DEHP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)が接触する溶媒中に溶出することが知られています。
このDEHP(※2)(フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)の溶出は医療用具においても確認され、米国FDA等が臨床使用における患者へのDEHP(フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)の曝露について報告しています。
日本でも平成13年度に実施された厚生労働科学研究医薬安全総合研究事業において日本の市場流通品の検証した結果を踏まえ、評価検討し、DEHP(フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)を可塑剤として含有するポリ塩化ビニル製の医療用具に係る現在の考え方をとりまとめたことから、これらの知見を紹介するとともに、医療関係者等に対し、臨床上使用されるポリ塩化ビニル製の医療用具について必要な注意を喚起することにしました。

という情報の開示がありました。
また、平成14年10月17日に医薬安発第1017004号の通達がありました。

2.ポリ塩化ビニル製の医療用具を用いて使用される脂溶性の高い医薬品について

ポリ塩化ビニル製の医療用具については、脂溶性の高い医薬品とともに用いるとその可塑剤として使用されているDEHP(フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)が溶出することが米国FDA等により報告されている。本邦においても平成13年度の厚生労働省医薬安全総合研究事業にて日本の市場流通品を用いて検証し、その評価結果を踏まえ、医療関係者に対して、別添により特段の配慮をお願いしたところである。  ついては、医薬品の製造業者等においても対応が必要であるので、貴会会員に対し下記の措置を講ずるよう、周知徹底を図られたい。  なお、ポリ塩化ビニル製の医療用具の製造業者等に対して、同日付け医薬安発第1017002号により適正な措置及び必要な調査等を求めたことを申し添える。

1. ポリ塩化ビニル製の輸液セット、フィーディングチューブ等の医療用具を用いて使用される脂溶性の高い医薬品において、使用中にDEHP (フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)がどの程度溶出するかについて別紙に示す試験方法を参考に自主点検を行うとともに、その試験成績を評価、検討し、必要に応じて使用上の注意に記載する等、適切な措置を講じること。
2. 上記1で自主点検を行った全ての品目について、講じた措置の内容につき、その根拠となる試験成績及び評価検討結果とともに平成15年1月17日までに当課宛に報告すること。

今回、濃厚流動食品(食品)は対象ではありませんが、日本流動食協会は、自主的に濃厚流動食品における安全性の確認を行うこととし、DEHP (フタル酸ジ‐2‐エチルヘキシル)の溶出量がどの程度になるのかについて、結果に偏りがないように標準的な21種類の製品にて同様な実験を行い、 結果をまとめました。

実験結果のまとめ

標準的な濃厚流動食品(21品)を当局の示す試験方法を参考にDEHP溶出量の測定を実施しました。
(各製品の3大栄養素の割合は下図に示した通りです。)
各製品を市販の経腸栄養ボトルに入れ、ポリ塩化ビニルを含む栄養点滴セットならびにフィーディングチューブ(8Fr.40cm)を接合し、約100ml/時の流速で400ml製品を流し、容器に貯め、一定時間後に、サンプリングして、DEHP濃度を測定しました。
測定は島津分析センターにて、実施しました。(GC/MS-SIMS法)

厚流動食品を使用した場合の塩化ビニル製医療用具からの可塑剤溶出試験

分析内容の詳細
分析条件 -GC条件-
カラム ZB-1 0.32mmID 30m 膜厚0.25 μm
カラム温度 70℃(2min)-20℃/min-140℃
-15℃/min-320℃(10min)
He圧力 50kPa(2min)-2kPa/min-90kPa(5.5min)
気化室温度 320℃
試料注入法 スプリット スプリット比 : 1:10
分析条件 -MS条件-
注入量 1μL
インタ-フェ-ス温度
SIMサンプリングレ-ト
300℃
0.2sec
選択イオン ・フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
   m/z 149.00、167.00、279.10
・フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)-d4
   m/z 153.00、171.00
・フタル酸ジ-ペンチル(DPeP)-d4
   m/z 153.00、241.00
分析装置 島津製作所 GCMS QP5050A

まとめと実験概要
ポリ塩化ビニル製医療用具からのDEHP(フタル酸-2-ジエチルへキシル)の溶出確認

ま と め
厚生労働省の医薬品・医療用具等安全性情報182号
(平成14年10月31日)に記載してある耐容一日摂取量(TDI)と比較しても、高齢者を想定した場合には、問題ない数値結果となりました。(※※)

実験概要
① 実験の目的:ポリ塩化ビニル製医療用具からのDEHP
(フタル酸-2-ジエチルへキシル)の溶出量の確認。
② 実験全体概要:濃厚流動食品を一定の使用条件で用いた場合のDEHP溶出量の測定を行う。
・各製品を市販の経腸栄養ボトルに入れ、ポリ塩化ビニルを含む市販の栄養点滴セットならびに フィーディングチューブを接合し、約100ml/時の流速で、容器にためる。
・一定時間後に、サンプリングして、DEHP濃度を測定する。
(サンプリング:1時間後、2時間後、4時間後に設定。)
③ フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の測定概要・溶出条件: 製品15mlを取り、除タンパクを行った後n-ヘキサンで抽出後、クリ-ンアップ操作を行ないGCMSで測定。
(今回の定量は、DEHP-d4を抽出操作前に加え、それを内部標準物質として定量を行った。)

※※注意事項 厚生労働省医薬局 医薬品・医療用具等安全性情報 No.182より

1)新生児・乳児に使用されるフィーディングチューブについては、
(1)対象患者の感受性が高いと考えられること 。
(2)体重が少なく、体重あたりの被曝量が大きくなると想定されること。
(3)脂溶性のミルク等を流すために大量のDEHPが溶出する可能性があること。
(4)代替製品が存在することから、できるだけ早期に使用を中止し、代替品の使用に切り替える。
2)ヘパリンコーティングチューブについては、
全くDEHPが溶出しないとする海外の報告もあるが国内流通品についての検討結果では,完全にDEHPの溶出を防止することができないが、曝露量を低減することが確認されており、DEHP曝露の低減の手段の一つとして参考にされるべきものとして周知する。なお、ヘパリンコートについては、生物由来の製品であるが,共有結合タイプの方がイオン結合タイプに比べて、よりDEHPの溶出を低減する傾向にあることも報告されていることも参考にするよう付記する。
3) 人工腎臓用血液回路については
(1)長時間の体外循環により大量のDEHPに被曝する可能性があること及び、(2)繰り返し使用されるものであることから、新生児・乳児等の感受性が高いと考えられる患者に使用される場合には,臨床上治療等に支障を生じない範囲(ヘパリンコーティングチューブの併用や回路の一部を代替品で置き換える等)で代替品の使用に切り替える。
4)人工心肺回路及びその他の血液回路については、
一時的に大量のDEHPに被曝する可能性があるものの、生涯を通じて反復して被曝する可能性は低いことから、代替品の使用に切り替えることが可能な場合(ヘパリンコーティングチューブの併用や回路の一
部を代替品で置き換える等)には、代替品への切り替えを検討する。
5)輸液チューブ及び延長チューブについては、
使用する薬剤に依存してDEHPが溶出することから、特に脂溶性の高い薬剤を使用する場合には、代替品への切り替えを検討する。
6)さらに、感受性が高いとされている新生児・乳児に加え、これらに影響する可能性が高い妊婦、授乳婦への適用については、
優先的に代替品に切り替える等配慮する。
7)血液バッグについては、
DEHPによる赤血球保護作用があることが報告されており、現時点で、代替品に切り替えなくてはならないものとは考えられないが、低温で保存することにより、DEHPの溶出を押さえることができるとの報告もあることから、保管温度を下げできるだけ短期間の保存にするように配慮する。

用語解説

※1: 可塑剤
成形や加工をしやすくするためにプラスチックや合成ゴムに添加する物質の事。
DEHPは「ポリ塩化ビニル」の可塑剤として使用されている。
※2:DEHP
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの事。DEHPは一時期内分泌かく乱化学物質の候補物質として議論されていたが、現在は、主として精巣毒性を有する一般毒性物質とされている。
3) 人工腎臓用血液回路については
(1)長時間の体外循環により大量のDEHPに被曝する可能性があること及び、(2)繰り返し使用されるものであることから、新生児・乳児等の感受性が高いと考えられる患者に使用される場合には,臨床上治療等に支障を生じない範囲(ヘパリンコーティングチューブの併用や回路の一部を代替品で置き換える等)で代替品の使用に切り替える。
※3: TDI
耐溶一日摂取量の事。TDIは、食品等から毎日摂取し続けても影響が出ないであろうという推測値であり、 医療に用いられる製品については、
(1)永続的に使用されるわけではない。
(2)治療は生命、身体に切迫した危険を排除するための手段であり、
その治療行為をより安全に行うことが優先されるべきである。とのリスクベネフィットの考え方から、これまで、ポリ塩化ビニルから溶出する可塑剤(DEHP)について特段、規制が設けられてこなかった。また、現時点においても、この位置づけは変わらず国際的にもポリ塩化ビニル製の医療用具の製造・ 販売等が禁止されている国はない。