II. 濃厚流動食の組成


1. 濃厚流動食の内容成分

 濃厚流動食の成分は、たんぱく質、脂質、炭水化物(糖質+食物繊維)、ミネラル、ビタミン、水などからなります。

①たんぱく質
 たんぱく質はアミノ酸で構成されています。アミノ酸が並ぶ順序や長さによって、たんぱく質の種類や機能が決まります。半消化態栄養剤では、カゼインなどの乳たんぱく質や大豆たんぱく質、乳たんぱく質の加水分解物、動植物たんぱく質由来ペプチドなどが使用されています。一方、消化態栄養剤では、アミノ酸またはジペプチドやトリペプチド等のスモールペプチド、乳たんぱく質や卵白の加水分解物が使用されています。また成分栄養剤は結晶アミノ酸が使用されています。

②脂質
 脂質は脂肪酸とグリセリンから構成されています。脂肪酸は炭素と水素と酸素の3種類の原子で構成されています。炭素原子の数や炭素原子のつながり方などの違いにより、脂肪酸の種類や性質が決まります。
 二重結合している炭素原子がない脂肪酸は飽和脂肪酸、二重結合のある脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれています。不飽和脂肪酸のうち、二重結合が1つしかないものを一価不飽和脂肪酸、二重結合が2つ以上あるものを多価不飽和脂肪酸といいます。多価不飽和脂肪酸の中でも、末端メチル基(CH3)から数えて3番目の炭素原子に二重結合があるもの(例:α-リノレン酸、EPA、DHAなど)を「n-3系(ω3)脂肪酸」といい、6番目の炭素原子に二重結合があるもの(例:リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸など)を「n-6系(ω6)脂肪酸」といいます。
 炭素原子が2~6個つながったものを短鎖脂肪酸、8~10個つながったものを中鎖脂肪酸、12個以上つながったものを長鎖脂肪酸といいます。濃厚流動食では、必須脂肪酸補給のために各種の植物油や動物油が使用されています。

③ 炭水化物
 炭水化物は糖質と食物繊維から構成されています。化学構造の特徴から、1つの糖からなるものを「単糖類」といい、単糖が2つ結合したものを「二糖類」といい、単糖が多数結合した高分子化合物を「多糖類」といいます。
 食物繊維は、ヒトの消化酵素で分解されない食物中の難消化成分の総称です。水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維に分類され、それぞれ生理作用が異なります。濃厚流動食では、さまざまな種類の糖質や食物繊維を添加した製品が発売されています。

④ ミネラル・ビタミン
 現在市販されている濃厚流動食に添加されているミネラル・ビタミンの種類や含有量は、製品によってまったく異なるため、濃厚流動食のみで管理されている患者さんの一部には、製品によっては欠乏症を起こす場合があるので注意が必要です。同時に、特定のミネラル・ビタミンが強化されている製品については、過剰摂取にならないような配慮が必要です。またミネラル・ビタミンの必要量は、年齢や性別、病態によって異なるため、ご使用になる方それぞれの状態に配慮する必要があります。

<栄養成分などの含有表示について>
濃厚流動食の栄養成分などの含有表示は、健康増進法の栄養表示基準で決められています。栄養成分の含有量が一定値で示されている場合、各栄養成分の表示値の誤差範囲は下記のとおりです。

2. 濃厚流動食の栄養成分や栄養指標について

①n-6系・n-3系脂肪酸
 多価不飽和脂肪酸は、炭素鎖の二重結合の位置からn-6系とn-3系に区分されます。
脂肪酸をメチル基側の炭素から、最初をn-1、2番目をn-2と数えた場合、n-6系はメチル基から数えて最初の二重結合がn-6とn-7の炭素の間にある脂肪酸を意味し、n-3系は最初の二重結合がn-3とn-4の炭素の間にある脂肪酸を意味します。
 代表的なn-6系多価不飽和脂肪酸は、リノール酸・γ-リノレン酸・アラキドン酸で、これらを多く含む植物油として紅花油・大豆油・ひまわり油があります。
代表的なn-3系多価不飽和脂肪酸は、α-リノレン酸・エイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)で、これらを多く含む油としてシソ油・エゴマ油があります。EPA、DHAは血管障害を予防するとともに、アレルギー反応を抑制する作用があるとされています。
 栄養剤に含まれるn-6系・n-3系脂肪酸の組成比は、n-6/n-3として表示されます。

② BCAA(分岐鎖アミノ酸)
 Branched Chain Amino Acidの略称で、バリン・ロイシン・イソロイシンの3つのアミノ酸を指します。体内でタンパク質の構成成分やエネルギー基質となり、近年、薬理作用としてタンパク質の合成亢進、糖代謝調節作用があることが報告されています。

③ NPC/N比(非たんぱく熱量/窒素比)
 NonProtein Cal/Nの略称で、良好な窒素出納を考慮する際に用いられる指標です。摂取したアミノ酸の体内での効率的な利用には、糖質および脂肪(非たんぱく)由来のエネルギー量とアミノ酸量を適正に保つ必要があるとされています。

④ 粘度
 液体のように、力を加えることによって流れる性質がある物質の「ねばりの度合」を表す指標です。単位はmPa・s(ミリパスカル・セカンド)で表します。粘度の高いものは流れにくく、低いものは流れやすい性質があります。
また力の加える速さで粘度が変化しないもの(ニュートン流体)と変化するもの(非ニュートン流体)とあります。
 例えば水あめ(変化しないもの)とマーガリン(変化するもの)をゆっくりと動かす(ボールに入れ傾けた)時、水あめは動きだしますが、マーガリンは固まっていて外には流れません。しかし、早く動かす(ホイッパーで激しくかき混ぜようとする)と水あめは結構な力を要しますが、マーガリンはかき混ぜ始めれば水あめよりも少ない力で混ぜることが可能です。

⑤ アミノ酸スコアとは
 対象となる食品のたんぱく質の利用度の高さを示すもので、0~100の数値で表されます。

*1第一制限アミノ酸:食品中の必須アミノ酸のうち、アミノ酸評価パターンの数値より最も少ないアミノ酸のこと
*2アミノ酸評価パターン:理想とされる必須アミノ酸組成のことで、WHO(世界保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)、UNU(国連大学)が設定

計算するすべてのアミノ酸の計算値が100以上の場合でも、アミノ酸スコアは100と表示されます。

⑥ フィッシャー比とは
   BCAA(分岐鎖アミノ酸)とAAA(芳香族アミノ酸)のモル比(BCAA/AAA)を指し、肝不全の栄養管理で考慮される指標です。
   BCAA(分岐鎖アミノ酸):バリン・ロイシン・イソロイシン
               肝硬変患者で低下するとされています。
   AAA(芳香族アミノ酸):フェニルアラニン・チロシン
               肝硬変患者で増加するとされています。
通常の食事のフィッシャー比は約3.0で、ほぼ一定と言われています。

⑦ 濃厚流動食の浸透圧の単位について
 mOsm/L(容量オスモル濃度)とmOsm/kg(重量オスモル濃度)の2つがあります。
mOsm/Lは溶液1リットル分が持つ浸透圧を指します。一方mOsm/kgは、正確にはmOsm/kg・H2Oのことで、溶液の水分1kg分が持つ浸透圧を指します。浸透圧計で測定するとmOsm/kgの値が得られ、mOsm/Lは計算により求められます。
 流動食の浸透圧の単位としてはどちらも使われていますが、日本流動食協会ではmOsm/Lに統一するよう推奨しています。

⑧ ミリグラム等量
• mEq 通称メック
• 1Eq=1mol×イオンの荷数
• mEq=【mg /(原子量)】×(原子価)
• ナトリウム1Eqというのは、ナトリウムイオンが1mol集まったもの(23g)、輸液の電解質は少ない量で考えるので、1mEq=23mgで考えます。

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